笄について
合成弦を使用する以上「笄」は、どなたにも起こり得る故障とご認識いただき真剣に対策を講じた上でお使い戴き、さらに防ぐ努力、研鑽をお願い申し上げます。
麻弦の場合は、「会」での過度の負担が主な起因であるのに対し、合成弦の場合は、それに加えて「離れ」の衝撃が、更にもっと、大きな起因となります。
以前は「会」でパチッと音がして笄に気付いたとの、お声が大部分でしたが昨今は、引き分け、行射後、手入れ時に気付いたとの声が圧倒的に多く、離れの衝撃の振動で発生する場合のほうが遥かに多い事を証明していると実感致しております。
笄は女性でも決して珍しい事ではなくなりました。故に、万一に備えての替え弓の用意は必ず必要でありますことご理解戴けると存じます。
合成弦の一射一射の「離れ」の衝撃はダメージとして弓に蓄積され、さらに先手に暴れる感触も伝えます。ある日突然「笄」として具現しても不思議ではありません。勿論、弓の寿命にも影響はあります。弓に優しい麻弦とは比ぶべくもない悪影響を与えていることは実感しております。
この状況に対応すべく、竹替え修理には、特に吟味した竹を使い、作業工程にも改善を加えました。この度、修理価格の改定をさせて戴きましたが、これに付随する事情とご理解戴き、ご了解を戴きますよう特にお願い申し上げます。
藤などを巻いた応急処置のまま使い続けるケースを見受けますが、確実に深く広くなります。そうなってからの修理は復元が思うにまかせないのは当然の事、「笄は即竹替え修理が原則です。 「笄」修理を容易な片手間作業とお考えの方が多いように感じますが、実際は新弓にも勝る技術、労力、時間を要し、責任を負い、ミスを赦されない本当に気の重い作業でありますこと、ご理解戴きたいと存じます。
材料を用意した後、成り状に湾曲した面を、手鉋にて丹念に削りとるしか方法のない困難で難儀な作業から始まります。
修理期間はタイミングが良くても仕上がるまで3か月前後は必要で、当方に着荷が 1日遅れても更に1か月発送が延びる場合もあります。
修理のご依頼は、最寄りの弓具店の対応が迅速でなかったり、不適切な場合は当方に下記の要領にてお送り戴くのが最善最速の方法です。
梱包には竹製の30センチ物差し4枚と細ヒモを用意します。上下の関板から姫反りまで弓を挟むように物差しをあてヒモで結びます。 まず、弦を外して、その弦は中に入れ、弓巻きで巻き(弓袋ではなく)その上を補強します。さらに、ビニール等を巻くか大きめの弓袋に入れたらなお万全かと思います。当方からのご返送は弦を張ってお送りするするため、弓巻き一枚は必ず入れて戴きますようお願い致します。
合成弦に軽い矢、細い矢、弓力に対して細い弦は禁物
軽い矢の使用は笄を助長し、上下弓弭の外竹の縦割れを誘発し、姫反りに弦が強く当たり過ぎる影響で弦子も出にくく、極端に軽い矢は反転をおこさせ首折れを招く可能性さえあります。また細い矢は一般的に箆張りが弱いですから、軽い矢に相当することになりますからやや太めの矢が無難です。合成弦を切れるまで使い続けたり、弓力に対して細すぎる弦使用も縦割れや笄に繋がる可能性を感じています。上下の弦輪は離れの度に堅く緊り、細くなり、外竹に当たる部分の負担が増え、弦全体も細く堅くなり、弓の負う負担は益々大きくなります。300射を越えたらそろそろ替え時と判断して戴きたいと存じます。以前、麻弦の時代には長く持ち過ぎた場合には、張ったまま鋏で切る教えもありましたが、合成弦使用の弓は絶対禁物です。ダメージの蓄積がありますから内竹割れの起因になります。合成弦は必ず、切れない内に取り替えるが鉄則です。
遠的行射では、弓の故障の発生率が非常に高いです。.射技的な面も少なからず影響はありますが、それよりも大きいのは軽い矢の使用にあります。合成弦使用の際は麻弦の場合よりも1~2割は重い矢の使用が必要と思います。外竹の縦割れ(弦輪のかかるところ)は見やすいところですから常に点検され、もし割れがあったら、瞬間接着剤アルテコのDタイプを染み込ませると割れは止まります。進むと芯まで入りますから修理不可能になります。割れがみつかったら矢が軽い証明です。補修とともに矢を重くすることも忘れないで下さい。
首折れを防ぐ
合成弦使用の場合の弓の反転は修理不可能な首折れに繋がります。 反転の主原因は空筈ですから、空筈は絶対にしないような対策が必要です。