強弓について
20キロ以上の弓は製作上の負担と、行射上の弓が受ける負担が格段に大きいことから、特別な弓として考えており、皆様にも左様ご理解戴きますれば幸甚で御座います。側竹、側木、芯材、格別に丈夫な上質の素材を選ぶことが肝要です。
特に外竹は硬く強く、そして笄が起きにくい形状の節の竹を選びますが、該当する竹は非常に少ないのです。
以前は、離れの衝撃を和らげる能力を持っている、麻の弦を使用される方も随分おられましたので、強弓をなるべく高価にしないための手段として、心ならずも板目の面が見える板目仕様の作りにしておりました。しかし今は合成弦のご使用が一般的になり、離れの衝撃の負担が層倍であり、強い弓ほど衝撃は強く、笄も起きやすく、万一、笄に気づかないまま、次の射にはいると修理不可能な破損に至る可能性も多分にあります。
板目仕様は、木の年輪が縦方向に無理に撓う(しなう)ことになり粘りがなく脆くなることも考慮して、柾目仕様の品格のある綺麗な木目の、あるべき本来の作りに致しました。
また、作業時間、労力とも通常の弓力の作品とは層倍の負担になります。例えば20キロの弓なら、はじめ24~5キロあります。踏み込んで踏み込んで、予定の弓力に仕上げていきます。非常に体力と時間、根気を必要とする作業であり、しかも、弓力が増すごと、累進的に作業負担は増しますことをご理解頂きまして相応の価格になりますこと、ご容赦戴きますようお願い申し上げます。 木目は木の年輪、冬場の忍耐の蓄積を示す痕跡であり強固です。この強固さは柾目仕様なら、強さと、しなやかな柔らかさに繋がりますが、板目仕様では硬い感触が残り勝ちにもなります。 弱弓は板目仕様でも幾分の硬さを感じる位で、笄の発生には別段の違いはないように考えております。「特 永野一萃」 銀文字の「特作 永野一萃」に並寸19キロ以上、二寸伸20以上キロが御座いませんのはこのことが関連しております。
優秀な強い麻弦が少なくなり、合成弦を使うしか方法がない近年、強弓のご使用は考慮の必要があります。
特別な強弓を引くための筋力トレーニングは弓を壊す力にも繋がり、弓士の皆様にとって不利益と思っており、弓道には体幹を真っ直ぐに整える様なストレッチングの方が有効で必要と思っております。射技、的中にも特に有利性は少ないように考えますし、寧ろ余裕のある弓力のほうが射技、的中、ともに成果は上がると思っております。
誤解なきよう申し上げますが、求められたら物創りとして喜んで作らせて頂きますし、厚みのある強弓は確かに見栄えもし創作意欲は湧きます。
そのための体の手入れとトレーニングは欠かさず続けております。
弓の踏み込みと身体の負担
平成17年11月でしたが左膝から足の甲まで、膝小僧などわからないくらいに腫れ上がり、膝を曲げるのも苦痛で、弓を打てなくなる危機も痛切に感じた時期でもありました。それでも仕事は同じリズムで一日も休まず続けましたが、12月になって、本当に運良く、優秀な脊柱整体の先生との出会いで今は完治しております。
しかし、踏み込みは、左足で限界いっぱいの力で踏む作業のため、骨盤が歪んで、膝に痛みと腫れが現出したいわば職業病です。弓つくりには必要な、体とケアの関係と理解して今も月に5~6回、15分間の整体をして頂く効果で壮健にて励んでおります。今は5年前より姿勢も動きも良いと実感致しております。
最近、嬉しいお便りを山口県と長野県の方から頂きました。山口の方は82歳のご夫人、地元新聞の写真入の記事、矍鑠とした「会」は誠に立派、つい先日は長野の90歳の男性、この方は米寿の年に何張目かの新弓を新調されましたが、この方の「会」も地元の会報にて拝見、誠に見事な射形で、元気を頂きました。
今後十年は現在のペースで弓創りに励めるとは思っておりましたが、目標を最っと先に置くべきなのかと思い始めております。