熱帯夜が弓に与える影響

 夏場、昨年(平成24年)頃より弓の上部、下部の剥離修理依頼を年間にごく数例ながら受けるようになりました。
近年、熱帯夜が続くことが頻繁になり、和弓にとっても年々非常に過酷な環境となっております。弓体は常に高温の状態にあるため、外気温と同じ温度になるのにさほどの時間は要しません。
直射日光下での、駐車中の車中などではすぐに六十度以上にもなります。弓体も高温からの加温ですから短時間で車中と同じ高熱状態になるのは当然の事とご理解いただきたいと存じます。
高温が弓に与える悪影響を重大に受け止めて頂き、皆様ご自身にて、必要適切な気配りと対応を頂けない限り、剥離は防ぎ得ない故障であります。
昨今のボンドは柔軟性にも優れ、接着力は非常に強力で優秀です。ただ高温にはやや弱点があり、以前のように火で加温しての型調整などは当然不適切で絶対禁物です。
弓士の皆様に最も意識して戴きたいのは車中での弓の状況であり対応です。夏場、駐車後のハンドルの熱さにびっくりのご経験おありかと思います。熱い感触なら六十度を超えており和弓には到底耐えられない高温です。
性能的に弓の木部、竹部は気温低下と共に、やや回復しますが、弓力低下などの悪影響は確実に蓄積するものと思って間違いありません。
高熱で劣化したボンドは本来の接着力に回復することは絶対なく、積み重なる度に劣化は確実に進み、やがては剥離に至る可能性は大いに推測できます。
走行中でも、弓巻きだけで直射日光を受けると、高温からの上昇ですから、短時間に思わぬ高温になること重々ご理解頂きたいと存じます。
車中は優良な遮光シート等で、弓を包むようなガードをすればかなりの効果ありと思っておりますが、それでも遠征時の途中休憩等では弓は必ず「一緒に持って」との感覚は是非必要と存じます。
高温によるボンドの劣化は蓄積されますから、時を経る度にやがては芯部剥離の可能性も考えられ、この場合は修理は絶対不可能です。 
昨年、今年は数例で済みましたが皆様の対応策がない限り、多数になる可能性と、修理不可能な状態になる可能性を危惧いたしております。
剥離に至らないものの、高熱による影響は弓力の弱り、弦子、型崩れなど性能低下には確実に繋がります。
夏場は和弓にとって非常に過酷な季節との感覚と知識を強くお持ち頂きます事を切に願っており、そして、是非対応策を講じて戴きます様お願い申し上げます。

記 平成25年11月18日

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